絵と文字

 精神が苦しみに耐えきれず死を願う時はいつもいろんな作品に助けられていた。音楽、漫画、アニメ、小説、映画などなど。その時の苦しみに合致する何かを必死に探して、見つければしばらくは苦しまずに延命できる。気づけばまた地獄の底に落ちてはまた蜘蛛の糸を見つけて這い上がる。何度も繰り返していくうちに、もはや登るのも落ちるのにも疲れてしまった。もうずっと、地獄で暮らすか死ぬか。難題である。

 近頃、創作に助けられている。苦しい原体験を昇華させることを目的とする創作者は多いのではなかろうか。他人の作品の続きが出るまで生きて、終わればまた新しい作品が出るまで生きる。自分の作品を完成させるまで生きて、完成すればまた新しい作品を始める。このループを生きる意味にするのが、他人の存在に依存せず一人で持続しやすいのでいいのかもしれない。

 最初は絵を描いていた。美しく正確に線を描いて色を付ける、自分が好きなものを再現したり作り出すというのは、安らぎをもたらしてくれる。少しずつ上達していくにつれ満足感もあった。しかし、ふとした時に膨大な虚無感に襲われた。自分にとってこの世で一番かけがえのないものを失ったのに、鼻の角度が変だの色が合わないだのに時間をかけているのがバカバカしい。生きていれば必ず嫌なことは起きる。私は余生を無意味なことに浪費しながら、これから起きるであろう嫌なことに耐え続けなければいけないと思うと、とても生きたいとは思えない。特に働くという点については、全く働きたくない。明日を生きたいとすら思えない人間が如何にして働けようか。学生時代あれほど喉から手が出るほど収入源が欲しかったのに、今ではいっそ財産が空にでもなればようやく野垂れ死ぬことができるのではないかと思ってしまう。

 私にはまだ自分の苦しみを絵で表せるほどの技量がまだない。下手なのだ。文字だって下手だ。だけど文字のほうがなぜか苦しみが軽くなる。何かを頭で考える時、人間は必ず言葉を使う。映像で考えることができる人はいても、言葉を一切使わずに考える人はいない。最も人間という種からみた世界の本質に近いのは言葉であり、我々にとってこの世に存在する森羅万象への道の基石は言葉でできている。理解する、表す、交流する際の原点となる手段だ。

 このブログを始めたのも、きっとそういうことだったのだろう。だけど次第にそれも足りなくなってきた。一時的な感情の発散にはなっても、根本的な何かを変えることはできない。そのうち、今まで私の人生を助けてくれたコンテンツの一つである純文学に目が行った。文芸もライトノベルもすきだが、私のこの重たい荷物を載せてくれるのは純文学という船だけだと感じた。

 私は小説を書き始めた。最初は絵と両方進めるのは効率が悪いのではないかと思ったが、死にたい人間が生意気に効率など考えるな。生きられる限りやりたいことはすべてやるし、それを他者に教えたり説明する義理もない。今の環境でそんな事を言う人はいないが、将来働けと言われたら働きたくない、死にたいで通すだろう。何かが収入に繋がればうれしいから頑張ろうなどと都合のいいことを考えていたが、やはり生意気なんだよ。そんなのは知ったことじゃない。秘宝を守るドラゴンのように私は卑怯を極めてコソコソやるし、社会から見て無駄でも無意味でも生きながらえる糧になるならやるべきに決まっている。まぁ、そうこうしているうちに、いつか絵を描くために、小説を書くために働こうと思える日だって来る可能性は否定しない。今は心底どうでもいい。働けずに餓死でもして野垂れ死のう。

 いざ書き始めてみると、実際に書く時間よりも好きな小説を読みなおしたり、考えている時間や手直ししている時間のほうが長い。小説というのは、特に商業目的ではないもの、娯楽を重視していないものは、絵のように一日に長時間をかけてひたすら指を動かしてかくものではないだろう。絵の場合はむしろ練習が物を言うのだから、極めて大切だ。ただ手を動かすだけでなく、頭を使って理解することで学習の速度がグーンと上がるが、手を動かさなければ何も得られないのが絵だ。そう考えると、小説を書けない時に絵を描いて、絵を描きたくない時に本を読んで小説を書くのはいいバランスか?だから知らんって、効率を考えるのはもうやめろ。

 本を読んで、生きて、自分の考えに浸って、生きて、食事をして寝て、生きる。そういう時間の蓄積の中でふとした時に大量に吐き出したり、また長い間書きあぐねて書かなくなったりと、ある意味学術的な研究のような過程ではないか。どれほど知識と技巧があって、それを駆使できる時間や財力があっても、降ってこないときは何も得ず、降ってくる時はいくらでも降ってくる。一雫の甘露のために苦渋を舐め続けて、奥底の何かを絞り出そうとする。それぐらい苦しい生き方のほうが、地獄にふさわしいだろう。

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