罪悪感はいてもいなくても

 もし彼が本当に亡くなっているのなら、止めてあげられなかった自分を一生許せない。きっと死ぬまで悲しみ続けて苦しまれる。これは事実。だけど、私はあの日彼を叱ったことを、仕方がなかったとも思っている。

 私は常日頃彼の心情と向き合う努力をしてきた。一番に彼の幸せを思い、細心の注意を払った。事が終わった今でこそ、あの時こうしなければ、ああしなければと言えるが、当時の自分には知る由もなかった。

 私は、全力で一生懸命だった。たくさん彼のフォローをしてきて、そのすべてを軽くあしらわれて、終いにはバイト先でのストレスが溜まりに溜まったタイミングで、彼を叱った。一般的なカップル同士の喧嘩を超越した内容は、何一つなかったと胸を張っていえるが。実は私自身が非常に歪な価値観を持っていた、彼にひどい仕打ちをしていた可能性はある。私が覚えている限りで、私の視点から何が起きたのかを述べてみる。

 何度励まして声をかけてもこちらに見向きもせずひたすら焦っている彼に対して、私はもっとしっかりしてよ、いくら頑張ってもあなたは聞く耳も持ってくれないから、もう何をしたらいいかわからないよと泣きながら怒っていた。彼はそんな私を見て顔色を悪くてして謝ったけど、私はそれを素直に受け取れずにどうしていくら頑張ってもあなたは幸せになってくれないの、など言っていた気がする。しばらく気まずい沈黙が訪れた後、内容は覚えていないが何かしら軽い話題を振ってくれた。今はそんな話題に乗れるような気分じゃないと言い、そこからさらにしばらく沈黙が続いた。自分の気持ちが落ち着いてきた頃に、私は彼に怒ったことに対して謝り、彼ももう一度謝ってくれて、二人でまた一緒に頑張ろうと約束をして和解した、と思っていた。

 彼からみれば全く違っていたかもしれないけど、私からは確かにこう見えていた。未だに、なぜ半年以上も行方不明になったのか全くわからない。あんなに日本に居たかったのに、今じゃビザが切れてるから帰ってきても強制送還される。理由の憶測はいくらでもできる。私を苦しめる自分に耐えられなくなったのか、情緒が不安定な私が耐えられなくなったのか、ただ感情のまま衝動的に出ていったきり帰るタイミングを見失ったのか。しかし彼が居ない限り、確証を得ることは決してないから、すべて不毛な憶測にすぎない。この程度の喧嘩は過去に数回あったけど、大体次の朝にはいつも通り生活していた。和解せずに終わったならまだしも、約束をしてくれたのに、逃げるために私に嘘をついたのかと余計心が痛む。

 いっそ怒鳴ってくれれば、泣いてくれれば、どれほど良かったか。嫌いなら、嫌いだと言ってくれれば、どれほど救われたか。付き合い始めた当初から私は、もし私のこと好きじゃなくなったら、他の人を好きになったら別れるから教えてほしいと言っていた。私に一言怒ることも、責めること、別れを切り出すこともできないのに、騙してまですべての責任を私に押し付けて私を地獄に落とした。

 考えれば考えるほど許せない。自分のことも彼のことも、許してあげたいのに誰一人許せなくて苦しい。あんなに幸せだった日々を、私が命にかえても守りたかった日々を、彼は自ら捨てられると思うと、もう苦しくてたまらない。彼に出会わなければ、今も彼は行方不明にならなかったかもしれないと思うと、自分を殺したくて仕方がない。なのに仕方がなかった、もう開き直るしかないと思う自分も居て、一体どうしろというんだ。何が正解なんだ。私のこころは常に揺れ動いていて疲れている。もうすべてなげうってしまいたい。

 

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