ロバの耳

主人は私の最大の理解者だった。彼と一緒にいた時は、どんな些細なことでもすぐ彼と話して相談していた。自分のことなら何でも知ってほしいと、嬉々として友人におもちゃを見せる子供のようにワクワクしていた。彼は最初に付き合い始めた頃によく私は何でも自分で抱え込みすぎるから、どんなことでも頼ってほしいと言っていた。私はその助言を受け入れて少しずつなんでも言うようになったが、彼の方は私が何度伝えても結局自分の心中を隠して、悩みが解決してから実は辛かったとやっと教えてくれるようなことが度々あった。

私が彼を頼りすぎてしまったばかりに苦しめてしまったのではないか。当時は彼に胸の内を告げてほしいとあまりにもしつこく主張するのは、かえって彼を追い詰めてしまうのではないかと考えていたが、それでももっと強く頼ってほしいと伝えたほうが良かったのではないか。そう思うと胸が苦しい。

しかしどんなに苦しくとも、生活は続いていく。今の私は、彼を失った喪失と向き合わなければいけない。

彼がいなくなったことで私が失ったたくさんのものの一つに、人生における相談役・傾聴役がある。王様の耳はロバの耳に出てくる、床屋が他人に打ち明けられない秘密を吐き出すために掘った穴と同じ役割を、このブログは補っているように思える。

友人には相談できず、事情を知っている家族とは人間として違いが多すぎて、相談してもかえって傷つけられたりイライラすることが多い。同じ喪失でも、それぞれに役立つ考え方や対処法が違う分、わかり合えない。話していると、かえって世界でたった一人の理解者だった彼を失った痛みを思い出す。

彼という人間の代わりはどこにもいない。それでも彼が消えたあとに空いた穴を、他のもので補修する事はできる。ぴったりじゃない、姿形が全く違う、完璧に塞ぐこともできない。うまく入らずにたくさん試行錯誤をしたうえで、ようやくある程度納得のいくものが見つかる。根気がいる作業なんだ。だけど、それでもできるだけ少しずつ穴を埋めていくことで、耐え難い喪失をもう少し抱えられるようにすることができる。

これからもきっとたくさん、穴を埋めるものを探さなければいけない。とても長くて、辛い過程になる。愚公山を移す。

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