聞かれない安心

水道業者の方に漏水の疑いがあると教えていただき、トイレの水がずっと流れていた事に気が付きました。寂しさと怖さを感じました。電話が苦手な私のために、家のことはいつも夫が代わりに電話をしていました。私を大切にしてくれる彼はもういないのだと、こういう時いつも痛感します。そして、今住んでいる物件は夫の名義で契約しているので、何故夫はいないのかと聞かれるのが怖かった。実際、家賃を代わりに支払うために問い合わせた時は、なぜ今まで通りに振り込みで支払えないのか聞かれた。仕方なく失踪している件を伝えると、相手は少し困ったリアクションをしていたが、特に触れずすぐに手続きを進めてくれたことを覚えている。ありがたかった。

今は家にいないと答えると、何かしら署名が必要とか、どうしても本人がいなければいけない場合は嘘をつくべきか、どんな嘘をつくべきかと思い悩んでいた。

夫が帰ってこない限り、きっとこの不安も周りとの溝も埋まらないのだろう。いなくなった直後のことを思い出す。オーバーステイにならないようにどうにかビザを延長できないかと入管にメールで問い合わせたら、書類を持って最寄りの入管に来てくださいと言われたので大慌てで向かいました。個室とかもないので、普通に周りに聞こえる環境で夫が失踪しあれこれこういう状態だと勇気を出して伝えるも、気まずそうな笑顔で本人がいない分には何もできませんと一言で送り返された。あの時は本当に理不尽さと恥ずかしさでたまらなく惨めだった。お宅のお問い合わせセンターが来いって言ったからわざわざ往復3時間かけて来たんだぞという怒りをぐっと堪えて、ありがとうございましたと言いすぐにその場を去った。

私は今でも夫のことが大好きで、彼は世界一優しくて愛おしい夫だと自慢したい。だけどそれと同じぐらい、彼の行いに傷つかれている。もし叶うなら、なぜ私を夫を失った妻にしたのか聞きたい。

結局、トイレの修理の件は夫については一度も聞かれなかった。幸運だ。お問い合わせフォームですでに契約者の妻ですと入力してあるからだろうか。普通に契約している人が家をあけることぐらいあるよね。業者の方が帰ったあとはすごくホッとした。

それから、本当に久しぶりに知らない人と喋った。業者の方がすごく気持ちのいい人で、なんてちゃんとしてる人なんだ、私のような夫が失踪したショックで一人暮らしの引きこもりニートをやってる人間が、トイレを直していただける方ではないと感じた。しかしそんな私でも、修理を依頼することで経済を回し、彼に仕事を与えているのなら、少しは生きている価値があったようにも思える。

夫の知らない私が、私の知らない夫がどんどん増えていく。いつかその空白を埋められるようになる日が来るのだろうか。あなたがいない間にこんなことがあった、あんなことがあったと、素直に語り合える時は来るのだろうか。ただぼんやりと思いを馳せる。

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