寂しくてどうにかなっちゃいそう

朝起きてリビングに向かえば彼がいる。おはようの後にハグをする。朝食を一緒に食べる。今やっているゲームが面白い、こういうアニメにハマってるなど趣味の話題で盛り上がる。彼より早く起きれた日はいつも寝顔をしばらく眺めていた。愛するひとの寝顔とはこんなにも愛おしいんだ、まるで生まれたてのひよこを眺めているようだと毎回胸がいっぱいになった。目を閉じていると、まつ毛が長いのが余計に目立っていて、いつもの印象とのギャップが不思議でついみてしまう。時々彼が変な寝癖を作って起きると、笑って写真を撮って彼にみせると、彼は恥ずかしそうに慌てて髪を整える。二人で写真を一緒にみて笑う。

午後になると、彼がコーヒーを淹れてくれる。私は彼の淹れたコーヒーが大好きだった。コーヒーそのものだけでなく、待ちながら淹れている姿を眺めるのも好きだった。彼は集中している時、口元に力が入って唇がぎゅっとする癖があった。アヒル口みたいになっているのが可愛くて愛おしかった。義母と会うことが多くなって、彼女にも同じ癖があると気づいた時は笑ってしまいそうになった。円を描くようにお湯を注いでから、彼はタイマーを片手にじっとフィルターの中を眺める。少し落ち着かない様子で、なんて言えばいいだろう、立ったまま貧乏ゆすりしているみたいな動きをする。昔ドラムをやっていたこともあって、よくクセで脚を動かしたり貧乏ゆすりをしていた。コーヒーが出来上がると、できたよー早く飲まないと冷めちゃうよーと声をかけてくれる。二人で静かにスマホやら本やらみながらコーヒーを飲んで、雑談を交わす。ああ幸せだと、二人とも静かな会話の合間でよく漏らしていた。

夜になるとよく二人で一緒にゲームをした。デート先で買ったボドゲであったり、パソコンのゲームであったり、本当に色々あったよね。アニメを一緒に観るのも大体夜だった。出先でも趣味でも食事でも、とにかく二人で感想を言い合うのが楽しかった。私はインドア派で外出はあまり好きじゃなかったけど、彼と感想を語り合えるならこの世の全てが面白いと感じていた。二人とも食べるのが好きで、お互いの好物を作れるように練習した。私は卵焼き、彼はナポリタン。私が落ち込んでいる時やお祝い事がある時はいつもナポリタンを作ってくれた。逆に彼が疲れていて元気がない時は、私が彼の好きな甘い卵焼きで献立を組んでご飯を作っていた。彼の作るナポリタンが本当に美味しくて大好きだった。作りすぎて特に考えずに、チャチャっとおいしいナポリタンが作れるようになったわというあなたにすごい、ナポリタンマスターだとはしゃいでいた私。昨日の出来事のように思い出せるよ。

また一緒にどこかに出かけたいな。家から少し離れた大きな駅で必要なものを買うために店舗を転々として、その合間で疲れた時にカフェに寄って一休みする。いつもの買い物のルーティンだった。遊びの日は出先に困ったらとりあえず秋葉原のネカフェに行って、あちこちぶらぶらしながら時間を潰した。巣鴨で散歩して、少し疲れたところにたい焼きを食べるのも好きだった。二人が初デートに行った池袋の水族館で年パスを買って通い詰めたこともあったっけ。彼は学生時代そこで年パスを買って、水族館に併設されているカフェで一休みするためだけによく通っていたと教えてくれた。二人とも駅近くの宮城物産店で売られているずんだシェイクとずんだ餅が大好きだったから、店が閉まった時は一緒にがっかりしてたな。

二人ともおじいちゃんおばあちゃんになるまでこの日々がずっと続くと、共に人生を過ごすと信じて疑わなかった。それなのに、結婚して半年であなたは家出をして行方不明になった。初めての結婚記念日を一人で過ごした。あなたが告白してくれて付き合った、二人にとって思い出深い日でもあったのに、出会ってから初めて一人で過ごした。寂しい、とてもとても寂しいよ。寂しさで心臓が張り裂けて、体が崩れて壊れてしまいそう。

あなたはどうして寂しくないの。もう一人の私のようなあなたが、世界一大好きといつも言ってくれたあなたが、この耐え難い苦痛を感じていないと思うと頭がおかしくなりそうなくらい寂しくなる。感じているなら、なぜ帰ってこないのかと思うと、やはりもうこの世にはいないのかもしれないように思えてきて苦しい。一人で思い詰めているのではないか、私に嫌われたり怒られるのが怖くて帰れないのか、それとも祖国に帰らなければいけないからその前に日本に少しでも長く居たいから帰らないのか。どう考えても、途方もなく寂しい。

今まで悲しくて涙を流したことがたくさんあって、ずっとあなたが家出をした時のことを考えていた。あまりにも衝撃的なことだったから、仕方がないよね。今回の出来事、ひいては自分の気持ちと向き合っているのだと思い込んでいた。でも違った。あの日のことや行方不明になったことばかり考えて、あなたを失った日々から目を逸らしていたんだ。

あなたがいない新しい日常を見つめるのが怖かった。一人で暮らしていく生活を築くことが、もう二度とあなたと共に過ごした幸せな日々が戻ってこない可能性を認めるのが怖くて逃げていた。忘れようと努力して、距離を置いたことで救われた部分も間違いなくあった。でも遠く行き過ぎて、寂しいと感じている私の心を置き去りにしていたのね。あなたがもうこの世にはいないなんてちっとも信じたくないのに、お利口なふりをして頑なに死んでいるのかもしれないと繰り返した。私は現実から目を逸らさないと言って、自分の気持ちから目を逸らした。死んでいるかもしれないと言えるうちは大丈夫、ちゃんとわかっているから、心の準備はできていると自分に言い聞かせて、口だけ動かして深く考えることから逃げていた。心の準備なんてできるわけないのに。無理せずに自分の気持を受け入れようとあんなに意識して気をつけていたのに、やはり私は素直になるのが苦手な捻くれ者なんだ。

私がいないとダメだと言っていたあなた。あなたがいないと死んでしまうと言った私。本当にうさぎみたいに寂しくて死ねたらいいのにな。そしたら無理に強がって、苦しみながら生き延びようとすることもなかった。せめて、もし本当に二度と会えないのなら、あなたがいないこの世界から逃げることができる。あなたと同じ道筋を辿って同じ虚無に行く権利があることが少しだけ嬉しい。

これまでに書いたものは全て苦しみながら必死に楽になろうとしていた。今日初めて、とても穏やかな気持ちで楽に書いたよ。普通の日記を書いているみたいでなんだかソワソワする。あなたに会いたいよ。大好きだよ。

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