夫が失踪してからは会話の相手も会う人間も殆どが義母一人になっている。失踪についてはいなくなった次の日には義両親に伝えていたが、義父は実家に滞在して義母が駆けつけてくれた。
“他人のために生きたくないけど生かされている” の続きを読む投稿者: haku91
苦しんでほしい、幸せになってほしい。自分が憎い、あなたが憎い。
私は彼に対する罪悪感で自分が憎いと感じるのと同時に、今までの人生で他人の言動で自分が不幸になってきたことに対する怒りを感じる。自分を苦しめたい気持ちと幸せになってほしい気持ちが両方ある。
“苦しんでほしい、幸せになってほしい。自分が憎い、あなたが憎い。” の続きを読む聞かれない安心
水道業者の方に漏水の疑いがあると教えていただき、トイレの水がずっと流れていた事に気が付きました。寂しさと怖さを感じました。電話が苦手な私のために、家のことはいつも夫が代わりに電話をしていました。私を大切にしてくれる彼はもういないのだと、こういう時いつも痛感します。そして、今住んでいる物件は夫の名義で契約しているので、何故夫はいないのかと聞かれるのが怖かった。実際、家賃を代わりに支払うために問い合わせた時は、なぜ今まで通りに振り込みで支払えないのか聞かれた。仕方なく失踪している件を伝えると、相手は少し困ったリアクションをしていたが、特に触れずすぐに手続きを進めてくれたことを覚えている。ありがたかった。
今は家にいないと答えると、何かしら署名が必要とか、どうしても本人がいなければいけない場合は嘘をつくべきか、どんな嘘をつくべきかと思い悩んでいた。
“聞かれない安心” の続きを読むロバの耳
主人は私の最大の理解者だった。彼と一緒にいた時は、どんな些細なことでもすぐ彼と話して相談していた。自分のことなら何でも知ってほしいと、嬉々として友人におもちゃを見せる子供のようにワクワクしていた。彼は最初に付き合い始めた頃によく私は何でも自分で抱え込みすぎるから、どんなことでも頼ってほしいと言っていた。私はその助言を受け入れて少しずつなんでも言うようになったが、彼の方は私が何度伝えても結局自分の心中を隠して、悩みが解決してから実は辛かったとやっと教えてくれるようなことが度々あった。
私が彼を頼りすぎてしまったばかりに苦しめてしまったのではないか。当時は彼に胸の内を告げてほしいとあまりにもしつこく主張するのは、かえって彼を追い詰めてしまうのではないかと考えていたが、それでももっと強く頼ってほしいと伝えたほうが良かったのではないか。そう思うと胸が苦しい。
“ロバの耳” の続きを読むすでに亡くしたもの
あいまいな喪失(行方不明、認知症、離婚のような不確実な喪失)の本では、自分が亡くしたもののリストを作るべきだと言われている。通常の喪失よりも認識しづらいから、自分でまとめないと心が混乱して苦しみの源になりやすい。
行方不明の場合、いなくなった人が帰ってきてくれれば何も失わずに済むと思ってしまいそうだけど、そうではない。例えば私は、失踪前に彼との未来を思い描いて、一生共に過ごすと想定して人生計画をたてていた。彼の失踪で私は、その思い描いた未来を失った。では彼が帰ってくればその未来を取り戻せるかといえばそうではない。
主人が失踪するとは想定していなかったわけだから、私が最初に思い描いていたのは失踪したことがない彼との未来だった。例え彼が帰ってきてまた夫婦を続けていくにしても、物理的にも精神的にもそれはもう別の形の未来になる。
“すでに亡くしたもの” の続きを読む可能性よりも信じたい気持ち
私は昔からペシミストで現実主義者だった。常に最悪な結果が起こるだろうと想定して生きてきたからか、それもあってか小さなトラブルで不安になりやすい。また、現実から目を逸らしてはいけないという妙なプライドがあって、学生の頃は現実逃避をしている友人や同級生にイライラして刺々しい言葉をかけていた。成人してから度々申し訳ないことをしたと思っていたが、今はさらにそれを痛感する。
私は、自分が楽観的に考えたり期待した結果傷つくのが怖いから、そういう性格になったのだと思う。自分が100傷つかなくていいように、60ぐらいさきまわりして傷ついておく。その結果どんどん心労が蓄積されていく。小心者でビビリで、なのに責任感が強いからすべて一人でなんとかして抱えようとする。夫が失踪した件において、この性格は私を大きく苦しめた。
私は自分の心が到底受け入れられないような痛みを、無理に喉の奥へと押し込もうとしていた。夫は最悪永遠に音沙汰がないかもしれない、死んでいるかもしれないからそれを常に念頭においておけ、そしていち早く受け入れろと無意識のうちに自分に言い聞かせていた。そして少しでもその可能性を示すような出来事があればなおさら自分を追い詰める。ほらこんな事が起きた、やっぱりもう最悪な結果を受け入れるしかない、早く受け入れろと迫ってくる。未だに目の前の現実すら受け止めきれていない私の心に対してそれは酷刑だった。
“可能性よりも信じたい気持ち” の続きを読む寂しくてどうにかなっちゃいそう
朝起きてリビングに向かえば彼がいる。おはようの後にハグをする。朝食を一緒に食べる。今やっているゲームが面白い、こういうアニメにハマってるなど趣味の話題で盛り上がる。彼より早く起きれた日はいつも寝顔をしばらく眺めていた。愛するひとの寝顔とはこんなにも愛おしいんだ、まるで生まれたてのひよこを眺めているようだと毎回胸がいっぱいになった。目を閉じていると、まつ毛が長いのが余計に目立っていて、いつもの印象とのギャップが不思議でついみてしまう。時々彼が変な寝癖を作って起きると、笑って写真を撮って彼にみせると、彼は恥ずかしそうに慌てて髪を整える。二人で写真を一緒にみて笑う。
“寂しくてどうにかなっちゃいそう” の続きを読む延命治療
今の私には、とてもじゃないけど彼のいない世界で生きていこうとは思えない。彼がいない人生と向き合えば向き合うほど、なんて意味のない時間なんだと気付かされる。どんなに美しい景色も、素晴らしい人間も、面白い娯楽も、私にとってはまるで無意味に感じる。世間にとっては宝物でも、私にとっては彼の髪の毛一本の価値もない。虚しい。何一つ幸福の種になりうるとは思えない。
彼がいない人生を受け入れる。彼の行方がわからない不確かさを受け入れる。これらがゴールとして推奨されているのは知っている。確かにそれができるなら生きていけるだろうなとも納得する。しかし今はどうしてもできない。なぜ生きなければいけないのだと反論したくなり、目指したいとすら思えない。むしろ、たった半年でそう思えるほうが気が狂っているんじゃないかな。
治せない病気は延命治療をするしかありません。
“延命治療” の続きを読む小さな痛みを感じられるのが恐ろしい
一ヶ月ぶりに一人でスーパーに行きました。
ポイントカードはいつも主人が管理していて、失踪してからは自分がその役割を代わりに担うと彼はもう帰ってこないと認めてしまっているような気がして、今までずっと放置していました。しかし毎回レジで聞かれて、たまに二度確認されることもあるので、純粋にポイントをつけた方が楽でお得だと思えてきました。
ポイントカードのアプリを入れて、いざカゴを持ってレジに向かうと、よく見かけるパートの方がレジに立っていました。ピ、ピ、とどんどんバーコードが読み取られていき、あとわずか数品残っている状態になりましたが、一向にポイントカードについて聞かれません。しまった。これはポイントをつけない常連客として顔を覚えられていて、聞かれなくなったのではないかと焦りはじめました。主人と同棲している期間も含めればもう3年以上通い詰めていて、私も相手の顔を覚えているぐらいですから、ありうる話です。
“小さな痛みを感じられるのが恐ろしい” の続きを読む過去は生まれ変わり世界は葬られる
主人の失踪が苦しいのは、目の前にある喪失だけでなく、彼と過ごした幸せな過去ですらも否定されてしまうことが一因を担っている。アニメを一緒に観てゲラゲラ笑って盛り上がったり、ゲームで真剣勝負をしてお互いムキになっては、終わったあとに楽しかったと言い合ったり、念願の旅行先でへとへとになりながらも満喫して穏やかな時間を過ごした。時々二人でスーパーのお惣菜を買って晩酌して、午後に彼が趣味で淹れているコーヒーでデザートを楽しみ、静かな会話の合間にふと幸せだと言い合うような日々だった。喧嘩をしてすれ違ったり、大変な目にあった時もあったけど、二人で支え合って乗り越えてきた。辛い思い出がすべて霞んで見えるぐらい圧倒的に幸せだった。ずっと彼もそう感じていたと堅固な確信を持っていたが、今ではほろほろ崩れた虚しい残骸を眺めるばかり。
朝から晩までずっと共に過ごしてきたこの三年間。平穏で至福に満ちた二人の世界は寿命が尽きるまで続くと信じて疑わなかった。いつか事故に遭うかも、病気になるかもと不安に駆られたことはあっても、結婚してたった半年でこのような終止符を打つとは思いもしなかった。私にとって彼は、朝になったら太陽が昇り、春になったら桜が舞うのと同じように、疑うのすらバカバカしいほど真隣にいて当たり前の存在でした。私の半身のような、あるいはもう一人の自分のような彼。そんな彼が想像だにしない苦しみを私に与え、二人で必死に努力して築き上げた生活を自らの手で葬った。その事実が私という人間のすべてを震撼する。
もはや、この世で信じられるものは何もない。確かなものなど一つもないと感じてしまう。諸行無常という言葉が後味の悪いスープのように私の体に染み入る。愛着を手放したほうが楽だとわかっていても、はいそうですかで手放せる人はいるのだろうか。少なくとも今のわたしには決してできない。仏陀にも僧侶にもなれない。
“過去は生まれ変わり世界は葬られる” の続きを読む