絵と文字2

 もはや自分は、昔と同じような自分として生きてはいけないという現実を、常に突きつけられている。長い間、美しい絵が描ければ、生きられるのではないかという推測を抱えていた。どんなに辛い出来事があっても、自分が心酔できるほど美しい絵を描く能力さえあれば、どうでもよく思えるのではないか。上司に叱られても、同僚と仲良くなくとも、病気に苦しんでも、いつかまた絵を描いてうっとりする時間がやってくると思えば、耐えられるのではないか。

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絵と文字

 精神が苦しみに耐えきれず死を願う時はいつもいろんな作品に助けられていた。音楽、漫画、アニメ、小説、映画などなど。その時の苦しみに合致する何かを必死に探して、見つければしばらくは苦しまずに延命できる。気づけばまた地獄の底に落ちてはまた蜘蛛の糸を見つけて這い上がる。何度も繰り返していくうちに、もはや登るのも落ちるのにも疲れてしまった。もうずっと、地獄で暮らすか死ぬか。難題である。

 近頃、創作に助けられている。苦しい原体験を昇華させることを目的とする創作者は多いのではなかろうか。他人の作品の続きが出るまで生きて、終わればまた新しい作品が出るまで生きる。自分の作品を完成させるまで生きて、完成すればまた新しい作品を始める。このループを生きる意味にするのが、他人の存在に依存せず一人で持続しやすいのでいいのかもしれない。

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他人のために生きたくないけど生かされている

 夫が失踪してからは会話の相手も会う人間も殆どが義母一人になっている。失踪についてはいなくなった次の日には義両親に伝えていたが、義父は実家に滞在して義母が駆けつけてくれた。

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苦しんでほしい、幸せになってほしい。自分が憎い、あなたが憎い。

 私は彼に対する罪悪感で自分が憎いと感じるのと同時に、今までの人生で他人の言動で自分が不幸になってきたことに対する怒りを感じる。自分を苦しめたい気持ちと幸せになってほしい気持ちが両方ある。

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聞かれない安心

水道業者の方に漏水の疑いがあると教えていただき、トイレの水がずっと流れていた事に気が付きました。寂しさと怖さを感じました。電話が苦手な私のために、家のことはいつも夫が代わりに電話をしていました。私を大切にしてくれる彼はもういないのだと、こういう時いつも痛感します。そして、今住んでいる物件は夫の名義で契約しているので、何故夫はいないのかと聞かれるのが怖かった。実際、家賃を代わりに支払うために問い合わせた時は、なぜ今まで通りに振り込みで支払えないのか聞かれた。仕方なく失踪している件を伝えると、相手は少し困ったリアクションをしていたが、特に触れずすぐに手続きを進めてくれたことを覚えている。ありがたかった。

今は家にいないと答えると、何かしら署名が必要とか、どうしても本人がいなければいけない場合は嘘をつくべきか、どんな嘘をつくべきかと思い悩んでいた。

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可能性よりも信じたい気持ち

私は昔からペシミストで現実主義者だった。常に最悪な結果が起こるだろうと想定して生きてきたからか、それもあってか小さなトラブルで不安になりやすい。また、現実から目を逸らしてはいけないという妙なプライドがあって、学生の頃は現実逃避をしている友人や同級生にイライラして刺々しい言葉をかけていた。成人してから度々申し訳ないことをしたと思っていたが、今はさらにそれを痛感する。

私は、自分が楽観的に考えたり期待した結果傷つくのが怖いから、そういう性格になったのだと思う。自分が100傷つかなくていいように、60ぐらいさきまわりして傷ついておく。その結果どんどん心労が蓄積されていく。小心者でビビリで、なのに責任感が強いからすべて一人でなんとかして抱えようとする。夫が失踪した件において、この性格は私を大きく苦しめた。

私は自分の心が到底受け入れられないような痛みを、無理に喉の奥へと押し込もうとしていた。夫は最悪永遠に音沙汰がないかもしれない、死んでいるかもしれないからそれを常に念頭においておけ、そしていち早く受け入れろと無意識のうちに自分に言い聞かせていた。そして少しでもその可能性を示すような出来事があればなおさら自分を追い詰める。ほらこんな事が起きた、やっぱりもう最悪な結果を受け入れるしかない、早く受け入れろと迫ってくる。未だに目の前の現実すら受け止めきれていない私の心に対してそれは酷刑だった。

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小さな痛みを感じられるのが恐ろしい

一ヶ月ぶりに一人でスーパーに行きました。

ポイントカードはいつも主人が管理していて、失踪してからは自分がその役割を代わりに担うと彼はもう帰ってこないと認めてしまっているような気がして、今までずっと放置していました。しかし毎回レジで聞かれて、たまに二度確認されることもあるので、純粋にポイントをつけた方が楽でお得だと思えてきました。

ポイントカードのアプリを入れて、いざカゴを持ってレジに向かうと、よく見かけるパートの方がレジに立っていました。ピ、ピ、とどんどんバーコードが読み取られていき、あとわずか数品残っている状態になりましたが、一向にポイントカードについて聞かれません。しまった。これはポイントをつけない常連客として顔を覚えられていて、聞かれなくなったのではないかと焦りはじめました。主人と同棲している期間も含めればもう3年以上通い詰めていて、私も相手の顔を覚えているぐらいですから、ありうる話です。

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帰り道で気付いたこと

空の写真を撮るのが好きだった。晴れ渡った空の色味、バラバラな形状を持つ家屋が作り出す影法師、温かな夕日の色。時間を切り取りようにふと立ち止まってシャッターを押すと、その瞬間の細やかな感動が永遠に続くように思えた。でもあなたがいなければただの帰り道だと、あなたがいなくなった世界で初めて気付かされた。空と家と太陽光。それだけのことだった。